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『むく鳥のゆめ』

朝がた、薄い雪片が風に舞い、初冬の空模様です。 浜田広介の童話集のなかの
『むく鳥のゆめ』 を知ったのは10月の末日でした。 物語の始まりと同じように季節が
過ぎていきます。 (以下、むらさきの文字は原文です。)

とうさん鳥がつくってくれたやわらかなすすきの穂のぬくもりが、むく鳥の子を寒さから
まもっていました。でも、かあさん鳥をまちわびるある夜、かすかな音に眼が覚めます。
風に吹かれる枯れ葉が、母が帰って来た羽のすれあうような音に聞こえたのです。
とうさん鳥が答えます。 「いやいや、ちがう。風の音だよ。」

「やっぱり、そうかな。」 むく鳥の子は、つまらなそうにつぶやきました。ほらのねどこに
もどりました。あたたかなねどこの中は、もう半分はひえていました。


落胆とさみしさがよくわかります。一枚の紙に収まるこのお話のちょうどなかほどです。
私には、あるところで接した小さなおとこの子の面影が浮かびます。

冬の夜中に、たった一枚残った枯れ葉が鳴る音は、むく鳥の子にとって母のささやきの
ように懐かしい音でした。そして風に飛ばされないように枝にしっかり結びつけました。

その夜のことでありました。むく鳥の子は、ゆめを見ました。どこからか、からだの白い
一わの鳥が、とんできて、ほらの中までちょこちょことはいってきました。むく鳥の子は、
おどろいて、「ああ、おかあさん」 と、よびました。
けれども、白いその鳥は、なんにもいわずに、やさしい二つの目をむけて、子どもの鳥を
ながめました。


このあと数行続き、翌朝、むく鳥の子が羽で葉の雪をはらいおとしてやったという情景で
物語は終わっています。

ある年、家の中がひっそりとなってしまったので、、わたしはとてもふわふわした大判の
毛布につつまれてねむりました。子どものように、「ぬくぬく、ぬくぬく」 とつぶやいて
もぐりこむと、心がすこし安らぎました。 母が旅立った晩秋に、まだ実をつけていた
とまとを繰り返し育ててきました。 一枚の葉によせる、むく鳥の子の気持に共感します。

雄々しい男性、優しい女性、それは私にとって、ものごころついたときから理想の父、
母の姿だったようです。やさしみのある父の強さ、芯のある母の優しさという意味です。

『むく鳥のゆめ』_c0087710_23123446.jpg昨年は、おもいでの一節を記録しました。 →  よろこびとは ..

暁の ゆふつけ鳥ぞあはれなる
       長きねぶりを思ふ枕に  式子内親王


今年最後の庭の薔薇
by lumiere6 | 2009-11-21 22:56 | mémoire
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